東京高等裁判所 平成2年(行ケ)90号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 本願発明の概要
いずれも成立に争いのない甲第二ないし五号証(本願発明の出願当初の明細書及び図面、昭和五八年八月一五日付、同五九年一〇月三〇日付及び同六〇年三月二〇日付各手続補正書。以下、これらを総称して「本願明細書」という。)によれば、本願発明は、特に多向性空隙を有する無半田、非螺合、非剥離型の接触片に関するものであつて、カスケード状の張開き差込口を有するものを作るための葉状弾性接触片材料からなる端子要素に係る発明で、本願発明の出願人等によつて既に開発されたLSA終端技術を採用して引込線ケーブル及びケーブル線のための無半田、非螺合、非剥離型の端子要素を提供することを目的とし、前記本願発明の要旨のとおりの構成を採用することによつて、<1>異なる線径の二本のケーブル、例えば引込線ケーブルとより細いケーブル線または心線、が単一の端子要素に終端される、<2>二本の終端されたケーブルの場合において、スロツトを画成する弾性突起は互いに独立して撓まされる、<3>過大な線径を有する線による狭い接触スロツトの損傷は生じ得ない、といつた諸利点を得ようとするものであることが認められる。
三 取消事由に対する判断
1 引用例一には審決の理由の要点2のとおりの記載があること、本願発明と引用例一記載の発明との一致点及び相違点は審決の理由の要点3のとおりであること、並びに、右相違点一に関しては格別創意工夫があるものとはいえないことについては、当事者間に争いがない。
2 取消事由一に対する判断
成立に争いのない甲第七号証(引用例二)によれば、引用例二記載の第二発明は、「絶縁被覆を持つた導線を圧入接続する電気接続端子に関するもので、……端子本体1に、中央の上下方向に導線2を圧入するスリツト3を形成した挟持片4、4を対向立設し、前記挟持片4の基部より挟持片4と離間して立設した抜け止め片5の上部片6の先端7を、前記挟持片4の上方に垂下せしめて導線2を圧入するスリツト3´を上記スリツト3の上方に形成して成る電気接続端子」に係る発明であることが認められ(一欄一七行ないし二欄一二行)、更に、同証拠によれば、引用例二には、「第4図(別紙三第4図)に示すように、スリツト3内に二本のコード9を圧入した場合に、導線2の径の違いにより例えば下部の導線2の方が上部の導線2より径が大きい場合は、上部の径の細い導線2の挟持片4、4との接触状態が安定せず、電気的に接触不良を起こしたり、導線2がスリツト3内より抜けるという問題があつた。本発明は上述の点に鑑みて提供したものであつて、スリツト内に圧入された導線が容易に抜けることなく、確実に圧入挟持することができる電気接続端子を提供することを第一の目的とし、一つの端子に二本の導線を安定且つ確実に接続することができる電気接続端子を提供することを第二の目的としたものである。」との記載(三欄一七行ないし四欄一〇行)、「以下第二発明を説明する。第9図に示すように端子本体1の挟持片4、4´に離間して立設した抜け止め片5´を長く形成し、更に両抜け止め片5、5´の上部片6の先端7、7´を下方に折曲して、挟持片4、4´の上方に位置せしめている。更に両先端7、7´間の巾はスリツト3の巾と同じ巾に形成し、下方のスリツト3と同形状のスリツト3´としている。こうして導線2を圧入するスリツト3、3´を上下にそれぞれ設けている。かくして二本のコード9、9´を端子本体1に接続する場合に、第10図に示すように一方のコード9を下部の挟持片4、4´で形成したスリツト3内に圧入固定し、更に他方のコード9を上部の抜け止め片5、5´の先端7、7´で形成したスリツト3´内に圧入固定する。」との記載(六欄二行ないし一五行)、及び、「第二発明の効果として、挟持片の基部より挟持片と離間して立設した抜け止め片の上部片の先端を、挟持片の上方に垂下せしめてスリツトを挟持片で形成されたスリツトの上方に形成したので、二本の導線を端子本体に接続する場合に、二本の導線は上下夫々のスリツトに圧入することができ、そのため導線の径のばらつきによる接続不良を起こすことなく安定に導線と端子本体とを接続することができる効果を奏する。」との記載(七欄一七行ないし八欄五行)の存在することが認められる。
以上によれば、引用例二記載の第二発明の技術課題は、一つの端子に径の異なる二本の導線を圧入しても安定した接触状態を確保すること及び導線の抜け防止であることは明らかであつて、引用例二にいう「導線のばらつき」とは、製造上の誤差範囲を含め、導線の径の異なることを前提としたものであることは容易に理解されるところである。なお、原告は、導線の径の異なりの点に関し「引用例二では、製造上の誤差程度のものであるから、最大の場合でも±0.1mmが限度であり、到底本願発明のように0.8mmの隔差までの認識があるとはいえず、「ばらつき」という製造上の誤差範囲での認識があるからといつて直ちに異径の点に認識が及んでいるとはいえない」旨主張するが、「ばらつき」という製造上の誤差範囲での認識とはいえ、引用例二の第二発明において、異径の点に認識が及んでいることは事実であるから、原告の右主張は妥当でない。また、前記事実によれば、引用例二記載の第二発明は、二本の導線を上下それぞれのスリツト3、3´に圧入することができるものであることが明らかであるから、二本の導線は独立的に係合されるものである。
よつて、「二つの接触スロツトを上下にもつ本願発明と類似の葉状弾性接点材料からなる端子要素で、接続する導線の径が相違するものであつても上下の夫々の接触スロツトに接続することができることが引用例二に記載されており、径の異なる導線を同じ端子要素に接続することは既に本出願前公知である。」との審決の認定に誤りはなく、取消事由一は理由がない。
3 取消事由二に対する判断
引用例二には、第二発明に関する記載として「更に両先端7、7´間の巾はスリツト3の巾と同じ巾に形成し、下方のスリツト3と同形状のスリツト3´としている。」との記載が存在することは前記のとおりである。しかしながら、引用例二記載の第二発明に関する前認定によれば、右第二発明の技術課題として、同じ一つの端子の同一のスリツト内に下部の導線の径が上部の導線の径よりも大きい場合には上部の導線が抜ける問題を解決するため、二本のケーブルを二つの接触スリツト内にそれぞれ独立して圧入接続することが示されているものと認められるから、接続すべき二本の導線の径の差に大きな開きがある場合には上部の接触スリツトの幅を下部の接触スリツトの幅よりも大きくすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと解するのが相当である。すなわち、引用例二の実施例において、上下のスリツトの幅を同じ幅に形成してはいるが、絶縁被覆導線を接触スリツト内に圧入固定する場合、圧入される導線はスリツトを形成する弾性突起相互の圧縮力により保持される各スリツトの幅は接続すべき導線の径より小さければよいのであつて、径の異なる二本の導線であつても該二本の導線の径の差の開きが大きくなければ上下の両スリツトの幅は同じでもそれぞれの導線を固定できるのに対し、接続すべき二本の導線の径の差に大きな開きがある場合には二つのスリツトの幅を異ならしめることは当業者が容易に想到し得るものである。したがつて、引用例二に開示された径の異なる二本の導線を一つの端子に圧入するという技術課題から、導線の径の差の大きさに対応して上下の接触スリツトの幅を異ならせる程度のことは当業者が容易に想到し得る程度の単なる設計的事項にすぎないものと解することができる。
よつて、取消事由二も理由がない。
4 取消事由三に対する判断
本願発明の作用効果として、本願明細書に「本願発明の要旨のとおりの構成を採用することによつて、<1>異なる線径の二本のケーブル、例えば引込線ケーブルとより細いケーブル線または心線、が単一の端子要素に終端される、<2>二本の終端されたケーブルの場合において、スロツトを画成する弾性突起は互いに独立して撓まされる、<3>過大な線径を有する線による狭い接触スロツトの損傷は生じ得ない、といつた諸利点を得ようとするものである」旨の記載があることは、前認定のとおりである。しかしながら、右<1>及び<2>の点が引用例一及び二からも当然に予測され得る効果であることは明らかであり、更に、右<3>の効果についても、成立に争いのない甲第六号証(引用例一) によれば、引用例一には「スロツトはそのワイヤーとその絶縁物の両方を受け入れるには狭すぎる。絶縁物はスロツトのエツジにより切り裂かれ、そしてその接触が内部のワイヤーにより完了する。裸線の直径は一般にスロツト巾よりも大きい。ワイヤーが強制的に挿入されると、その断面は変形する。結果として生じる残留応力は良好な接触を確保し、そしてスロツト内にワイヤーをしつかりと保持する。」と記載されていることが認められる(一欄一一行ないし一九行、同訳文二頁八行ないし一四行)ところ、導線の直径が接触スロツトの巾に比して過大であれば該スロツトに損傷を与えることは当業者の当然に予測し得るところであつて、導線の径の大きさに応じて接触スロツト幅を任意に設定して該損傷を防止すべきことは当業者の容易になし得る設計的事項であるから、右<3>の効果も格別のものということはできない。
よつて、取消事由三も理由がない。
四 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
無半田、非螺合、非剥離型の接触片を形成する葉状弾性接点材料から成る端子要素において、該端子要素が、縦方向の第一の接触スロツト2を形成し、カスケード状に拡大された差込口4を有する弾性突起2b、2cと、前記第一の接触スロツト2の底部に接続された横方向のスロツトと、該横方向のスロツトに接続された二つの離隔したスロツトとによつて形成された倒立したU形スロツト3と、前記横方向のスロツトの下に前記第一の接触スロツト2と一直線に形成され、該接触スロツト2の幅よりも狭い幅を有した第二の接触スロツト2aとを有しており、前記第一の接触スロツト2が、前記第二の接触スロツト2aに終端されるケーブル線の線径よりも太いケーブル線を終端でき、さらに第一、第二の接触スロツトが各々に終端されるケーブル線と独立的に係合することを特徴とする端子要素。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙一
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別紙二 省略
別紙三
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(他は省略)